行政書士の事件簿とは?記載事項・様式・保存期間・書き方
事件簿は、行政書士が「備えなければならない」と法律で定められた帳簿です。しかし、何をどこまで書けばよいのか、いつまで残すのか、様式は決まっているのかは、開業時にまとめて説明されることが少ない項目でもあります。この記事では、根拠となる条文をそのまま引きながら、記載事項・保存期間・書き方を整理します。
事件簿の根拠は「行政書士法第9条」
事件簿の義務を定めているのは、行政書士法第9条です。条文は次のとおりです。
(帳簿の備付及び保存) 第九条 行政書士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名その他都道府県知事の定める事項を記載しなければならない。 2 行政書士は、前項の帳簿をその関係書類とともに、帳簿閉鎖の時から二年間保存しなければならない。行政書士でなくなつたときも、また同様とする。
出典:行政書士法(昭和二十六年法律第四号)/e-Gov法令検索
条文には「事件簿」という言葉は出てきません。法律上は「その業務に関する帳簿」であり、実務上これを事件簿と呼んでいます。
施行規則には事件簿の規定はない
「詳しい記載事項は行政書士法施行規則に書いてあるのでは」と探した方もいるかもしれませんが、行政書士法施行規則に事件簿(業務に関する帳簿)の記載事項を定めた条文はありません。施行規則にある「帳簿」の条は指定試験機関の試験事務に関するもの、「会計帳簿」は行政書士法人に関するもの、「記録及び帳簿」は日本行政書士会連合会に関するもので、いずれも個々の行政書士の事件簿とは別のものです。
出典:行政書士法施行規則(昭和二十六年総理府令第五号)/e-Gov法令検索
したがって、事件簿について確認すべきものは次の2つになります。
- 行政書士法第9条(全国共通)
- 所属する都道府県知事が定める事項(都道府県ごとに異なる)
第9条第1項の末尾にある「その他都道府県知事の定める事項」がこれにあたります。所属の行政書士会や都道府県のページで、様式や追加の記載事項が示されていないかを一度確認しておくと確実です。
記載事項は4つ(行政書士法第9条第1項)
条文が名指ししている記載事項は4つです。順に、実務でどう埋めるかを見ていきます。
1. 事件の名称
受託した手続の名前です。「建設業許可 新規申請」「在留期間更新許可申請」「産業廃棄物収集運搬業許可 更新」のように、後から見て何の仕事だったか分かる粒度で書きます。「許認可」「相談」だけでは、2年後に見返したときに判別できません。
2. 年月日
受託した年月日です。実務では、受託日に加えて完了年月日も並べて記録しておくと、後述する「帳簿閉鎖」の起算点が分かりやすくなり、進行中の案件との区別もつきます。
3. 受けた報酬の額
実際に受け取った報酬の額です。ここで注意したいのが立替金との区別です。登録免許税、収入証紙代、公証人手数料など、依頼者に代わって支払った実費は行政書士の報酬ではありません。報酬額の欄に混ぜてしまうと、事件簿の数字と会計上の売上が合わなくなります。列を分けて記録してください。
4. 依頼者の住所氏名
氏名(法人の場合は名称)だけでなく、住所までが条文の要求です。氏名しか書いていない事件簿は、この点で条文を満たしていません。法人であれば主たる事務所の所在地と名称を記載します。
実務上は、これらに加えて次の欄を設けておくと役に立ちます。条文上の義務ではありませんが、後で自分が困らないためのものです。
- 事件簿番号(年ごとの連番)
- 提出先官公署
- 立替金
- 進行状況(受託・作成中・提出済・完了)
- 更新期限(許可の有効期限など)
- 備考
保存期間は「帳簿閉鎖の時から2年間」
第9条第2項が定めているのは「作成から2年」ではなく、帳簿閉鎖の時から2年間です。ここを取り違えると保存期間が1年近くずれます。
年度ごとに1冊として運用している場合、その年度の記載を終えて締めた時点が帳簿閉鎖です。たとえば2026年分を2026年12月31日で閉鎖したなら、2028年12月31日までが保存期間になります。2026年1月に受託した案件を基準に「2028年1月まで」と考えると、11か月ほど足りません。
保存対象は帳簿だけではありません。条文は「その関係書類とともに」と定めています。委任状、申請書の控え、官公署からの通知など、その案件に関する書類も一緒に保存します。
そして、行政書士でなくなったときも同様です。廃業したら処分してよい、という性質のものではありません。
守らなかった場合
第9条に違反すると、罰金の定めがあります。
第二十三条 第九条又は第十一条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。
これとは別に、第14条により、この法律に違反したときは都道府県知事による懲戒の対象になり得ます。処分の種類は、戒告、2年以内の業務の停止、業務の禁止です。
また、第13条の22第1項により、都道府県知事は必要があると認めるときに、職員を事務所に立ち入らせ「その業務に関する帳簿及び関係書類」を検査させることができます。「作っていない」は説明が難しい項目です。
出典:行政書士法(昭和二十六年法律第四号)/e-Gov法令検索
⚠️ 2026年9月18日訂正:この節は当初「帳簿の備付け・保存を怠った場合の直接の罰金規定は置かれていません」と書いていました。第23条第1項の確認漏れによる誤りです。
様式は自由。ただし後から直せる形で
条文は記載事項を定めていますが、様式は定めていません。紙のノートでも、Excelでも、ソフトでも構いません。日本行政書士会連合会が提供する事件簿作成システムを使っている方も、市販の様式を使っている方もいます。
選ぶときの判断材料は、次の3点に絞ってよいと思います。
- 4つの法定項目が漏れなく入るか(特に依頼者の住所)
- 2年後に取り出せるか(PDFやCSVで書き出せるか、ソフトが終了しても読めるか)
- 記録し忘れないか(受託した日にその場で書けるか)
3つ目が実は一番重要です。事件簿が続かない事務所のほとんどは、様式が悪いのではなく「後でまとめて書こう」として溜めています。役所からの帰り道にスマートフォンで1行足せる形にしておくと、記憶が新しいうちに埋まります。
よくある不備
これまで見聞きした範囲で、指摘されやすい点を挙げておきます。
- 依頼者の住所がない。氏名だけで済ませているケースが最も多い不備です。
- 報酬額に立替金が混ざっている。実費を含んだ総額が報酬額として記載されている状態です。
- 無報酬の案件を書いていない。条文は報酬の有無で区別していません。受託した以上は記載対象です。
- 保存期間の起算点を間違えている。前述のとおり、受託日ではなく帳簿閉鎖の時からです。
- 年をまたいで1冊にしている。閉鎖の時点が曖昧になり、保存期間の管理が難しくなります。年度で区切るのが無難です。
電子で持つ場合の考え方
事件簿を電子データで持つこと自体は差し支えありません。様式の定めがないためです。気をつける点は、2年間にわたって「読み出せる状態」を保てるかどうかです。
- 使っているソフトが終了したときに、データを取り出せるか
- 特定のパソコンにしか入っていない状態になっていないか
- 依頼者の個人情報を含むため、保管場所とアクセス範囲が説明できるか
書き出し(PDFやCSV)に対応しているかどうかは、最初に確認しておくとよいと思います。
まとめ
- 根拠は行政書士法第9条。施行規則には事件簿の規定はない
- 記載事項は、事件の名称/年月日/受けた報酬の額/依頼者の住所氏名。加えて都道府県知事の定める事項
- 保存は帳簿閉鎖の時から2年間。関係書類も一緒に。行政書士でなくなった後も同じ
- 様式は自由。法定項目が漏れないこと、2年後に取り出せること、その場で書けることで選ぶ
なお、実際の運用にあたっては、所属する都道府県知事の定めや行政書士会の指導を必ずご確認ください。この記事は条文の整理であり、個別の判断は所属会にお問い合わせください。
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