行政書士の報酬に源泉徴収が不要なのはなぜ?条文で確認
「行政書士に報酬を払うときは10.21%を源泉徴収する」と書かれた記事を見かけます。しかし条文を読むと、行政書士は源泉徴収の対象として列挙されていません。この記事では、所得税法と同施行令の条文で対象を確認し、例外にあたる場合と、請求書にどう書くかを整理します。
源泉徴収の対象は法律が列挙している
源泉徴収の義務を定めているのは所得税法第204条です。士業の報酬は第1項第2号にあります。
(源泉徴収義務) 第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。 (中略) 二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
(所得税法第204条第1項第2号)
列挙されているのは、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・測量士・建築士・不動産鑑定士・技術士です。行政書士はありません。
「政令で定めるもの」にも行政書士はない
条文の末尾に「その他これらに類する者で政令で定めるもの」とあるので、政令も確認します。
(報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収) 第三百二十条 2 法第二百四条第一項第二号に規定する政令で定める者は、計理士、会計士補、企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)、測量士補、建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)、不動産鑑定士補、火災損害鑑定人若しくは自動車等損害鑑定人(中略)又は技術士補(技術士又は技術士補以外の者で技術士の行う業務と同一の業務を行う者を含む。)とする。
(所得税法施行令第320条第2項)
ここにも行政書士という文字はありません。法律にも政令にも列挙されていない以上、行政書士の報酬は原則として第204条第1項第2号にあたりません。
源泉徴収が必要な場合(例外)
上の政令をもう一度読むと、括弧の中にこう書かれています。
建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)
資格の名前ではなく、業務の内容で範囲を決めています。行政書士が建築に関する申請・届出の書類を作成し、またはその手続を代理することを業としている場合、この括弧書きに当たり得ます。
つまり、次のように分かれます。
- 許認可・在留・相続などの一般の業務 … 列挙にないため、原則として対象外
- 建築に関する申請・届出の書類作成や手続の代理 … 政令の括弧書きに当たり得るため、対象になり得る
どの業務がこの括弧書きに当たるかの具体的な線引きは条文からは読み取れません。建築関係の申請を扱っている場合は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
支払う側が個人なら、そもそも徴収しない場合がある
対象になる報酬であっても、支払う側によっては源泉徴収が要りません。
第二百四条 2 前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない。 (中略) 二 前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの
(所得税法第204条第2項第2号)
給与を払っていない個人が支払う場合は、源泉徴収の対象から外れます。従業員を雇っていない個人の依頼者から報酬を受けるときが、これにあたります。
法人が支払う場合や、給与を払っている個人事業主が支払う場合は、この除外にはあたりません。
税率は10.21%ではなく、内訳がある
対象になる場合の税率です。
(徴収税額) 第二百五条 前条第一項の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。 一 前条第一項第一号、第二号、第四号若しくは第五号又は第七号に掲げる報酬若しくは料金又は契約金(次号に掲げる報酬及び料金を除く。) その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)の税率を乗じて計算した金額
(所得税法第205条第1号)
条文上は10%(100万円を超える部分は20%)です。これに復興特別所得税が上乗せされます。
(源泉徴収義務等) 第二十八条 所得税法第四編第一章から第六章まで(中略)の規定により所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収(平成二十五年一月一日から令和十九年十二月三十一日までの間に行うべきものに限る。)の際、復興特別所得税を併せて徴収し(後略)
(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第28条第1項)
よく見る「10.21%」は、所得税10%に復興特別所得税を加えた結果の数字です。条文に10.21%という数字がそのまま書かれているわけではありません。
司法書士との違い
司法書士・土地家屋調査士・海事代理士は、控除がある別の号に置かれています。
二 前条第一項第二号に掲げる司法書士、土地家屋調査士若しくは海事代理士の業務に関する報酬若しくは料金(中略) その金額(中略)から政令で定める金額を控除した残額に百分の十の税率を乗じて計算した金額
(所得税法第205条第2号)
控除する金額は政令にあります。
法第二百四条第一項第二号に掲げる司法書士、土地家屋調査士又は海事代理士の業務に関する報酬又は料金 同一人に対し一回に支払われる金額 一万円
(所得税法施行令第322条)
司法書士は1万円を差し引いた残りに10%です。行政書士の報酬について、この控除の規定は適用されません(そもそも列挙されていないため)。ここを混同した説明が見られます。
請求書にどう書くか
原則として源泉徴収の対象外である以上、請求書に源泉徴収の欄を設ける必要はありません。
建設業許可申請 報酬 120,000
登録免許税(立替金) 90,000
──────────────────────────────
小計 210,000
消費税(10%・報酬分) 12,000
──────────────────────────────
ご請求額 222,000
書くときの要点は2つです。
- 報酬と立替金を分ける。 登録免許税や収入証紙代は行政書士の売上ではないため、消費税の課税対象になりません。
- 消費税は報酬にのみ課す。 立替金に消費税を乗せない。
依頼者から「源泉徴収します」と言われたら
法人の経理から源泉徴収を前提とした処理を求められることがあります。所得税法第204条第1項第2号と同施行令第320条第2項に行政書士が列挙されていないことを示せば、通常は解決します。
ただし、建築関係の申請を扱っている場合は前述の括弧書きに当たり得るため、一律に「対象外」と答えず、業務の内容を確認してください。判断に迷う場合は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
まとめ
- 所得税法第204条第1項第2号の列挙にも、施行令第320条第2項の政令指定にも、行政書士はない
- ただし建築に関する申請・届出を業とする部分は、政令の括弧書きに当たり得る
- 対象であっても、給与を払っていない個人からの支払いは除外される(法第204条第2項第2号)
- 税率は条文上10%(100万円超の部分は20%)で、10.21%は復興特別所得税を加えた数字
- 司法書士等の1万円控除(法第205条第2号・令第322条)は行政書士には関係しない
本記事の法的根拠の確認状況
参照した条文
| 内容 | 条文 |
|---|---|
| 源泉徴収義務と対象の列挙(行政書士なし) | 所得税法 第204条第1項第2号 |
| 政令で定める者(行政書士なし/建築代理士の括弧書き) | 所得税法施行令 第320条第2項 |
| 給与を払っていない個人からの支払いは除外 | 所得税法 第204条第2項第2号 |
| 税率10%・100万円超は20% | 所得税法 第205条第1号 |
| 司法書士等は控除後に10% | 所得税法 第205条第2号 |
| 控除する金額 1万円 | 所得税法施行令 第322条 |
| 復興特別所得税の併せ徴収 | 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法 第28条第1項 |
確認先
- 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)/e-Gov法令検索
- 所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)/e-Gov法令検索
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成二十三年法律第百十七号)/e-Gov法令検索
確認できなかったこと
- 「建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするもの」の具体的な範囲。 どの業務が当たるかを示す条文を確認できませんでした。国税庁の通達や質疑応答事例で扱われている可能性がありますが、一次情報として確認できていないため、線引きを書いていません。
- 復興特別所得税の税率2.1%を定めた条文。 第28条第1項で「併せて徴収する」ことは確認しましたが、税率そのものを定めた条項を特定できていないため、「10.21%」の計算過程を条文で示していません。
- 依頼者側の経理処理の扱い。 支払調書の提出義務など、支払う側の実務については確認していません。
税務の判断は税理士の業務です。個別の事案は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
監修について
この記事は行政書士有資格者・税理士いずれの監修も受けていません。条文に当たって書いていますが、実務上の判断や個別の事案への当てはめは確認されていません。
事件簿クラウドなら、この記事の内容が2分で終わります。無料で10件まで。
法定の項目がそろった事件簿がブラウザで書けて、許可の更新期限は自動でお知らせします。 パスワードもクレジットカードも不要です。